銀行の企業融資におけるデータサイエンス活用

銀行の機能

私たちが普段、銀行を利用するとき、銀行の機能についてあまり意識することはありませんが、銀行は金融機関として次の3つの機能を持っています。

1つ目は、預金を基に貸出が行われ、貸し出された資金は貸出先の預金となるというように、預金が新たな預金を生み出し預金通貨が増加していく「信用創造機能」です。

2つ目は、現金を使わないで預金口座の振替で送金や支払いができる「決済機能」、3つ目は、資金に余裕がある個人や企業から預金を集めて、資金を必要とする個人や企業に融資する「金融仲介機能」です。

この中で最も重視されているのが「金融仲介機能」です。企業を中心とした融資から得られる利息は銀行の主な収益源になっています。銀行がこの機能を果たすためには、主に、融資した後に貸出先の経営状態が悪化し資金が回収できなくなる貸し倒れリスクをできる限り回避すること (信用コストの削減) と、貸手と借手の間に発生する借手の信用状況に関する情報格差の解消(情報生産機能)が必要です。

そのため、情報生産機能向上のために信用評価の高度化が求められています。

信用評価で行われる分析の種類

銀行で行われている信用評価は主に2つの分析を組み合わせています。
ひとつは、定量分析です。売上高や経常利益などの決算書に記載されいる数値や、それらの数値から計算される財務比率(例えば、経常利益÷売上高×100%で表される売上高経常利益率) といった定量データを使った分析です。

もうひとつは定性分析です。業界動向や技術力、取引先、経営者の資質など、企業へのヒアリングや実地調査で収集される定性データを使った分析です。

これらの分析は貸出先ごとに行われます。貸出先の中心が中小企業となる場合貸し倒れスクが高い企業も含まれることになります。さらに, 1件当たりの金額が小さいためそこから得られる利息も小さくなります。

中小企業への融資で銀行が収益をあげるためには、リスクを一定の基準で適切に評価し、融資の数を増やす必要があります。しかしながら、審査担当者の実務経験によって貸出金利にバラツキが見られることがあります。
このような課題を解決する方法のひとつとして、貸し倒れリスクを算出するモデルの利用が進められてきました。

主なリスクスコア算出モデル

貸し倒れリスクのスコアを算出するモデルは、基本的に貸し倒れリスクと関係がありそうな財務データや企業の属性データを説明変数にして、貸し倒れが発生する確率を算出します。モデルを作成することにより審査担当者が異なっても、入力データが同じであれば、同じ結果が得られ、信用評価のバラツキを抑えることができます。
 
主に利用されているのはロジスティック回帰モデルで、モデル構築に使用される変数は、財務データなどの定量データと、 業種など数値化しやすい一部の定性データです。このモデルの利点は、たとえば、算出された確率が低い場合に、どの変数に原因があるのか確認することができることです。審査担当者は、原因と思われる変数についてさらに詳しく調査したり、銀行内外に対して貸し出す際の判断理由を説明したりすることができます。

中小企業への融資の課題と新しい融資サービス

中小企業にとって、資金が必要なときに融資が受けられることは事業の成否に関わる重要事項です。現状、中小企業の資金調達先は銀行が中心となっていますが、銀行から融資を受けるためには、少なくとも過去3期分の決算書や資金繰り計画をはじめとする書類の準備が必,要です。

また貸し倒れリスクが高い場合などには銀行内の承認手続きが増え、融資の承認が下りるまでに時間がかかることがあります。そのため希望するタイミングで融資が受けられないことがあります。

このような状況を変える動きとして、イギリスやアメリカ、中国を中心にP2Pレンディングやトランザクションレンディングと呼ばれる新しい融資サービスが提供され始めています。

P2Pレンディング

P2Pレンディングは、Peer-to-Peerレンディングの略語でインターネット上で金融機関を介さずに貸手と借手をマッチングさせることで融資を実行するサービスです。

P2Pレンディングは、ソーシャルレンディングと呼ばれることもあります。また、混同されやすい言葉としてクラウドファンディングがありますが、クラウドファンディングよりも広い概念で「寄付型」、「報酬型」、「融資型」、「投資型」などに分類されます。

P2P レンディングは融資型クラウドファンディングにあたります。

日本では、貸手から借手に直接融資をすることが難しいなど、貸金業法による制約があるためP2Pレンディングを提供する企業は多くません。今後、法整備が進められれば、参入企業の増加も期待されます。

トランザクションレンディング

トランザクションレンディングとは、ネットショップやインターネットバンキングなど、特定のサービスを提供するプラットフォーム上でやりとりされる履歴データを基に信用評価を行い、融資を実行するサービスです。

信用評価に使用されるデータには、クレジットカードの決済データやクラウド会計システムに日々入力される取引伝票データ、預金口座の入出金データなどがあります。融資対象者はプラットフォームの利用者に限定されますが、プラットフォーム上で日々やりとりされる精度の高い電子化されたデータを基に信用評価が行われるため、従来の銀行よりも審査の時間が短く、審査に通れば利率は高いものの融資を受けることができます。

日本では、eコマースを中心に提供する企業が広がってきており一部の金融機関においても取り組みが始まっています。

銀行の企業融資におけるデータサイエンスの活用

融資の根幹となる信用評価において、現状、財務データなどの定量データを用いたモデルの活用は進んでいますが、企業へのヒアリングや実地調査で集められたデータ、いわゆるテキストデータへのモデルの活用は進んでいません。

一方、ディープラーニングをはじめとするデータサエンスに目を向けると、その進展は目覚よしいものがあり、大量の画像データを学習し未知の画像データが何であるかを判別する精度や、大量のテキストデータを学習し関連性の高い文書を抽出する精度は年を追うごとに向上しています。

今のところ、実際の審査業務の中で、審査担当者に代わってテキストを分析し、最終的な融資判断を行えるレベルまでには達していませんが、これまでに蓄積された融資案件の膨大な資料の中から類似したなど、案件を抽出するなど、審査担当者を支援するツールとして利用することは有効だと考えられます。

また、審査担当者の経験による分析結果のバラツキの抑制や 分析期間の短縮にもつながると考えられ、今後の積極的な活用が期待されます。

なお、今回の記事は以下の本「エンジニアが学ぶ金融システムの「知識」と「技術」 」 大和総研フロンティアテクノロジー本部 (著) を参考にしました。ご興味がある方は、一読してみてはいかがでしょうか?

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